一頭の牛と高校生の2年間…阿蘇のあか牛の肉が大阪・関西万博へ

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熊本 2025.07.09 20:17

阿蘇に広がる美しい草原と、草を食むあか牛。2つの未来を守るための高校生のプロジェクトに密着しました。自分たちで育て上げたあか牛を通して伝えたいこととは。

■審査員
「本当に食べやすいお肉だと思いました」
「すごく柔らかくてヘルシーな印象」

熊本農業高校の生徒が育てたあか牛のお肉。総勢7人でつないだ一頭の牛と高校生の2年間を追いました。



始まりは、おととし8月。熊本農業高校の3人の生徒があか牛を育て始めました。名前は「なつき」です。背景には、こんな目的が…

■佐藤涼真さん(当時3年)
「(自分たちが)あか牛の肥育をすれば草原にも目を向けてもらえるし、あか牛にも目を向けてもらえるので」


阿蘇に広がる草原。あか牛が草を食べることや「野焼き」で再生を繰り返し1000年以上守られてきました。しかし、野焼きの担い手や牛を育てる農家が減り維持が危ぶまれています。そんな中、高校生が始めたのが「草原プロジェクト」。阿蘇の牧草を与えあか牛を育てることで、あか牛の魅力や草原の現状を伝えることが目的です。



■上田龍征さん(当時3年生)
Q(牛は)何キロくらい?
「330キロないくらいです」

目標は2024年の12月までに755キロまで育てて、出荷すること。当時の3年生が卒業し、プロジェクトの担当は次の学年へ。順調に体重は増えていましたが…


■髙林誠士郎さん
「何キロ?」
「体重が576キロ」
「(7月の)目標体重が620キロなんですけれどそれに全然到達してないので」

なつきが牧草を食べてくれなくなりました。牧草の種類を変えるなど約半年間試行錯誤を続けましたが、2か月後、学校に行ってみると…

■中元佑姫さん
「700(キロ)はこの間いってたかなと思います」

■道越晴菜野さん
「牛が寝やすいように周りにあるもみ殻を中心に集めています」

草原プロジェクトを新しい3年生が引き継いでいました。

■中元佑姫さん
「先輩たちが、ずっと代々やってこられてたからそれを引き継いで、もっと前よりもよくいいお肉を作りたいなっていう気持ちはありました」

なつきがゆっくり休めるよう、もみがらのベッドを作ったり、水のみ場をこまめに掃除したり…細かい部分を見直すうちに食欲も戻り、体重が増えていきました。

■吉永憲生教諭
「人が関わることによって、牛がやっぱり応えてくれるというのがあるんだなぁって思うんですけど」

■道越晴菜野さん
「結構ベロベロしてくれるところが好きです」

■中元佑姫さん
「実習服引っ張ってきたりとか。ちょっとかまってちゃんみたいなところがあって、本当に人が好きなんだなみたいな。まだまだ赤ちゃんみたいな感じ」

そんななつきの体重は…?


■道越晴菜野さん
「794(キロ)」

目標の755キロを上回りました。それは、なつきの出荷を意味します。

■道越晴菜野さん
「楽しみでもあり、寂しくもある感じが一番あります」

■中元佑姫さん
「牛ももうお肉になると思っていつも接してるから。そこまでなんか悲しいみたいなのはないけど。でもいざ明後日出荷ですみたいな言われたら、ちょっとなんかもう会えないのかみたいな。毎日えさちょうだいみたいな目でいつも見てきてたから、それがなくなるのはちょっと寂しいなって思います」

なつきとの別れの日。

Q今日のなつきの様子はどう?
■道越晴菜野さん
「あんまりいつもと変わらない気がします」
■中元佑姫さん
「ヘアセット。おしゃれして」


なつきはトラックで宇城市の食肉解体場に向かいます。

■中元佑姫さん
「おいで!いやか?おいで!よしよし」
Qいつもこんな感じ?
■先生
「いや、てこずってますね」

10分近くかかりました。2年分の思いを背負ったなつきが出発しました。

■中元佑姫さん
「ここに来た瞬間察して一歩も動かなくなったからなつきもわかってるのかなって。ちょっと悲しいムードに天気もなったのかもしんない。先輩がつないできたから、美味しいお肉になってほしい」

この話には続きが…

■中元佑姫さん
「万博会場であか牛の魅力とかすごさを世界に伝えにきました」

■道越晴菜野さん
「めっちゃ不安です」


高校の「草原プロジェクト」を大阪・関西万博「にっぽんの宝物ジュニアグランプリ」で発表することになったのです。大会には、地域の物産や観光の盛り上げに取り組む中学生から大学生まで6つの団体が参加。グランプリ1団体を選びます。

審査員にはゴルゴ松本さんも。いよいよ、2人の発表の番です。


■中元佑姫さん
「私たちは赤牛の飼料に阿蘇の草原の草を与え、牛と自然が共に守られる循環を作ろうと頑張っています」

審査では、なつきのお肉も食べてもらいます。

■中元佑姫さん
「このお肉を通して、私たちの気持ちと熊本の大地の力を感じていただけたら嬉しいです」


■審査員
「女性でも食べやすい。柔らかいですし、すごくヘルシーな感じを受けた」
「熊本の大地の力を感じてくださいとコメント通り、本当に感じるようなとても美味しい牛肉でした」


■ゴルゴ松本さん
「ベストオブ命!阿蘇のあか牛」

グランプリには届きませんでしたが、「ベスト命賞」をいただきました。

■ゴルゴ松本さん
「阿蘇の『蘇』は"よみがえる"ですけど、常に大地を考え、そこで育むたくさんの命。そして赤牛がコラボして我々に命を繋いでいく未来に繋げていくというところに僕は共感しました」


■中元佑姫さん
「グランプリ取れなかったのは悔しかったんですけど、命賞っていう一番農業高校・畜産とかにピッタリな賞をもらうことができてとても嬉しかったです」

■道越晴菜野さん
「審査員の人たちも美味しそうにお肉食べてくれたし、なつきのお肉で、赤牛のこととか阿蘇のことを知ってもらえてよかったと思います」

高校生が育んだ、なつきの命。阿蘇の草原とあか牛の未来のために奮闘した高校生となつきの2年間です。