5年間 時が止まったまま廃止決定の3駅…JR肥薩線沿線住民の落胆

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熊本 2025.07.01 20:11

67人の命が奪われた熊本豪雨からまもなく5年を迎えます。大きな被害を受け今も運休しているJR肥薩線。八代駅~人吉駅の区間にある15駅のうち3駅の廃止が決定しました。貴重な交通手段だった肥薩線が利用できなくなることで、地域の住民からは落胆の声も上がっています。


■髙木正孝さん(95)
「肥薩線は私の命ですよ」


かつてJR肥薩線に携わる仕事をしていた髙木正孝さん(95)。国鉄だった時代から38年にわたってJR九州に勤務し、肥薩線を見守ってきました。約100年の歴史を持つJR肥薩線。観光列車の「SL人吉」や「かわせみやませみ」も走るなど地域に愛された路線でした。


しかし2020年7月4日、熊本豪雨が発生。濁流が街をのみこみ災害関連死を含む67人が犠牲になるなど甚大な被害をもたらしました。肥薩線も鉄橋が流出したほか、駅舎や線路に土砂が流入し、壊滅的な状態に。5年近く経った今でも八代~吉松(鹿児島県)を結ぶ86.8キロの区間で運休が続いています。

1日も早い復旧を望む声が上がる中、ことし3月に動きが。JR九州と国、県は熊本豪雨で被災した肥薩線の八代・人吉間について、2033年度ごろの運行再開を目指すことで合意しました。しかし、その一方で…。


■熊本県・亀崎直隆副知事
「拠点性と賑わい創出というふたつの観点からそれぞれの駅について整理検討してきたところですが、 この3駅についてはなかなか利用が見込めないということからそういうことになりました」


八代駅~人吉駅にある15駅のうち、八代市の瀬戸石駅、芦北町の海路駅、球磨村の那良口駅の廃止が決定したのです。被災前の利用客がいずれも1日平均1人以下で、駅を拠点とした観光集客も見込めないというのが理由でした。廃止が決まったことに髙木さんは落ちこんだといいます。

■髙木正孝さん
「那良口の場合は球磨川がすぐ眼下に見えて、風景の素晴らしいところ。あれを簡単にホームまで撤去するなんてとんでもない話ですよ。簡単になくなるなんてたまった話かと」

山あいにある那良口駅。駅のそばの集落には9世帯20人あまりが暮らしています。20~30年前には通勤・通学で那良口駅から乗車する住民も多かったといいます。過疎高齢化が進み人口が減少したものの、熊本豪雨の前も買い物や通院のために肥薩線を利用する人がいました。長期にわたる運休、そして廃止決定について住民は…。

■男性
「困っている。みんな」
■女性
「今のところは運転してるけど、 この先いつまでも乗るわけにはいかない。もう年齢的にもね」

近くに店や大きな病院がない集落。車で買い物に行かざるを得ない人は将来に不安を募らせています。


■買い物の際 娘が車で送迎
「出かける時に(スーパーに)3~4か所寄るわけですよ。(送迎が)1週間に1回なもんだから。なんか交通手段を作っていただければと思いますけどね」

このような問題を少しでも解消しようと、球磨村が運行しているのがコミュニティバスです。週2~3日定時運行し、運賃は一律100円。那良口駅の近くでは、診療所や役場に向かうバスが火・木・土曜日に1日4本程度走っていて、手を挙げると乗車することができます。


■球磨村 復興推進課・蓑田武洋主査
「多いところは毎回、その曜日指定の日には乗られる方もいらっしゃいますし、時々乗られているような地区もあります。買い物とか通院とか行かれることが多いので、そういった方々が不便にならないような運行ができるように検討したい」

しかし課題も…。球磨村によりますとコミュニティバスは便数が少ない上、県南の市街地までは乗り継ぎが必要で、人吉市や国土交通省と改善策を検討しているということです。

集落の人にとって待ち合わせ場所などとしても利用され、地域のシンボルとなっている那良口駅。熊本豪雨後、駅が稼働しなくなってから髙木さんは寄せ書きノートを置きました。そのノートには駅での思い出や復旧への期待がびっしりと記されていました。


(ノートの書き込み)
「夏休み、子どもとSLを眺めていたのがとても懐かしいです。復興願っています」
「古き良き肥薩線を末永く」

肥薩線の歴史と様々な思いが詰まった駅の廃止。不便になりながらも住民たちは複雑な思いでこの地域に住み続けます。