コメの価格高騰に「球磨焼酎」も苦境に 老舗蔵元語る現状
日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されて、5日で半年。そうした中で、熊本が誇る銘酒・球磨焼酎が苦境にあえいでいます。原因はコメの不足と値上がりです。「令和のコメ騒動」に翻弄される老舗の蔵元を取材しました。
熊本を代表する米焼酎で、約500年の歴史を誇る球磨焼酎。国産米と豊富な水を使ってつくられています。錦町にある大正元年創業の老舗酒造メーカー、常楽酒造です。
■常楽酒造 副杜氏・吉田和弘さん
「こちらが18年貯蔵の樽、中身は米焼酎が入っています」
木製の樽で貯蔵した樽焼酎が主力商品で、長いものは20年熟成させています。そんな伝統ある蔵元が、いまピンチに陥っています。
■常楽酒造 副杜氏・吉田和弘さん
「原料となるコメの価格が一番響いてきますので仕込めば仕込むほどお金がかかるので、極限まで抑えて焼酎づくりをやっている状態」
原因は原料となる加工用米の価格高騰。副杜氏の吉田さんは、去年の約2倍に上がっていると話します。さらに追い打ちをかけているのが…。
■中野美月記者
「こちらは原料となるコメを保管する倉庫です。例年ですとこちらの倉庫にびっしりと詰まっているが、こちらを見てください。今年は在庫がかなり少なくなっている」
こちらのグラフは、県内における過去10年間の加工用米の生産量です。5000トンを超えた2015年のピーク時と比べて、2023年は3547トンと約3割減少しています。農家の高齢化や後継者不足で担い手が減る中で、需要が高まっている食用米への切り替えが進み、加工用米の生産量がさらに減ることが懸念されています。
年間を通してつくってきた樽焼酎は、今年、生産量を例年の3分の1にまで制限。750ある樽のうち、70近くが空の状態です。
■常楽酒造 副杜氏・吉田和弘さん
「空の樽がどんどん増えていく状態なので見通しは全く立たない状況。来年と言わずに今年どうなるのかなと心配」
常楽酒造が所属する球磨焼酎酒造組合は5月に県議会を訪れ、蔵元が苦境に立たされている現状を訴えました。
■繊月酒造 堤純子社長
「値段を上げたらどうかと言われますけど、なかなか値上げが難しくて物価高で財布のひもが固い中でどうやって生産量を保っていくか、どうやって収入を保っていくか」
また、農林水産省や国税庁と意見交換し購入資金への助成などを要望したということです。価格高騰にコメ不足というダブルパンチの逆境のもと、球磨焼酎の伝統を守る道を模索しています。
■常楽酒造 副杜氏・吉田和弘さん
「これからも球磨焼酎、米焼酎をたくさんの人に飲んでもらいたい。おいしいと言ってもらいたいというのが私の目標。できる限りこの意志を貫き通したい」
【スタジオ】
(緒方太郎キャスター)
実は4日、小泉農林水産大臣からこんな発言がありました。
■小泉進次郎農水相
「日本酒作りに励んでいる皆さんからは、酒米が高い。そしてまた足りない。こういったお声が届いてるのは事実です。何かしらの対応を考えなければいけない」
小泉農水大臣は、酒造用や加工用としても備蓄米の放出を検討していると明らかにしたんです。これを受けて常楽酒造の吉田さんは「備蓄米が回ってくれば嬉しいが、どのくらい確保できるか不透明」と話しています。
(永島由菜キャスター)
ちょうど半年前に日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたばかりです。球磨焼酎を世界に向けてアピールしていくためにも、一刻も早くコメの価格の沈静化と安定供給が実現するよう期待したいですね。