星野リゾート代表と知事に聞く「熊本・九州が抱える観光の課題」
(東島大 記者)
外国人観光客が増えているというインバウンド関連のニュース、ここのところ毎日のように耳にしませんか?
去年熊本に宿泊した外国人の数は147万人。ごらんのように過去最高を更新。コロナ禍をはさんでも10年で倍増というペースで増えている。この数字だけみると熊本すごいな、人気だなって思うんですが、実は違うんです。このグラフに熊本のライバル福岡県を重ねるとどうなるか…。
(東島記者)
一目瞭然、福岡の圧倒的勝利。去年福岡に宿泊した外国人観光客は熊本の5倍です。12年前は倍ちょっとしか差が開いていませんでした。福岡の方がホテルが多いとは言え、この結果は極端です。実は6月、九州の観光が抱える課題を鋭く指摘した人がいます。星野リゾートの代表・星野佳路さんです。6月、九州エリアでの戦略を発表した星野リゾート。この場で星野佳路代表は、九州が抱える課題について持論を展開しました。
■星野リゾート・星野佳路代表
「今のままですと、県ごとの利害関係が強いから福岡に集中しているかもしれませんが、福岡はもしかしたらほかの県に(観光客を)出したくないのかも しれない。そういうことがある限りなかなかこの問題は解決しません」
(東島記者)
代表を務める星野さんは斬新なアイデアを次々に打ち出し日本の観光戦略の牽引役とも言われます。
■星野リゾート・星野佳路代表
「世界の人から見ると、九州っていうのはひとつの島に見えてるわけです。にもかかわらず、九州のプロモーションはいま各県単位になっています。熊本は『熊本来て下さい』『大分来て下さい』こうなってしまうことによって結果的にどの県も十分なプロモーション成果が得られない状態になってるのは私は九州の課題だと思います。熊本は熊本のプロモーションをやめなきゃいけないというのが私の考えなんです。熊本は九州のためにあるんだと思えるかどうかが大事なんです。九州のための熊本になれば、その効果は必ず熊本にも戻ってくるわけですよね。その考え方を熊本が持てないならほかの6つの県も持てない。そうすると7つの県はひとつになれない」
【スタジオ】
(東島記者)
それぞれの県の観光プロモーションをやめるべきと言うのは過激に聞こえるかもしれませんが、具体的な数字に基づいています。たとえば北海道。北海道の観光の魅力イメージはダントツです。九州は福岡がトップで熊本は18位。でもかけている予算は九州7県合計の3分の1にすぎません。星野さんはこうした数字を挙げたうえで、九州の観光予算全体を管轄し、権限も与える組織の新設を提案しています。
(緒方太郎キャスター)
なかなか手厳しいですが、それに対して熊本県はどう考えているんです?
(東島記者)
木村知事の考えを聞きました。
【VTR】
■熊本県・木村敬知事
「やはりすべて福岡で決めてもらうのはやっぱり困るというか熊本のいろいろな地域のそれぞれの良さを引き出していきたいというのが県知事としての思いなので、福岡ないしは九州のどこかひとつに権限を集中すれば、より効率的にはなるけれども、その分切り捨てられていくところが増えるだけだと思う。観光って、うしろに観光課がいるのでなんだけど、行政がじゃぶじゃぶお金を使ってやる世界じゃないと僕はそもそも思ってるんです」
一方で、補い合うところは補ってという考えには共感するところも。たとえば海外からの定期便の問題です。
■木村敬知事
「定期便ってどうしても福岡にほかのアジアはまだ集中してるんです。たぶんいちばん大分がうまく福岡に、言葉は悪いですがある意味ぶら下がってるというか一緒にくっついていく構造なのでタイとかベトナムとかマレーシア、シンガポールあたりだとその輪っかに熊本も入っていこうというのが今の戦略ですし、まずそれぐらいから始めていくのでいいと思っています」
Q外国人観光客数とかいくらお金を落としたとかどんどん更新していく中でバスに乗り遅れるなみたいな浮き足だってるところがあると思う?
■木村敬知事
「難しいですね。やっぱり私は観光というのはその地域の魅力でひきつけない限りは永続しない。いわゆる補助金的なものとか何か優遇策で引っ張るのは永続しないと思ってますし、その地域の文化とか歴史とか、または本当にライフスタイルそのもので引きつけるような観光地にしていきたいというのが大きな魅力、僕の願いです」
(緒方太郎キャスター)
目先の補助金では長続きしないという木村知事、九州各県がバラバラにプロモーションしても効果がないという星野さん、目の前の利益より長期的な視点でおふたりの意見は重なっているように聞こえました。
(東島記者)
まさにその通り。今のインバウンドの盛り上がりというのは、とにかく目先のお金を稼ごうとするあまり、どんな観光地を作っていくのか、どんな景色を守っていくのか、そういう哲学を欠いたまま突き進んでいるという批判があります。10年後、100年後も世界から人が訪れるような熊本にするにはどうすればいいか、今が正念場ではないでしょうか。