(緒方太郎キャスター)
日本テレビ「DayDay.」MCで熊本出身の武田真一さんとリモートで結んでお伝えします。
今回は熊本市にある慈恵病院が取り組む「こうのとりのゆりかご」や「内密出産」を取り巻く課題について考えます。この課題を武田さんと一緒に考えていただくのは、ゆりかご当事者で大学生の宮津航一さんです。
宮津さんは3歳の時、慈恵病院が運営している「こうのとりのゆりかご」に預け入れられました。その後、里親の元で育てられた経緯を公表し、現在は大学生の傍ら子どもたちの支援活動を続けています。武田さんは宮津さんを以前からご存じですよね。
(武田真一さん)
初めてお会いしたのは宮津さんが中学1年生のときです。とある番組の取材の過程でお目にかかりました。そのときに(宮津さんと)ご家族の様子は本当に幸せそうで、「ゆりかご」の制度は様々な議論があるとは思いますが、こうやって一人の命が育まれていくということが尊いなと思い、取り組みの意義に共感しました。きょうは色々とお話させていただきたいと思います。
(緒方太郎キャスター)
そして今回は「こうのとりのゆりかご」や「内密出産」について海外の事例も含め取材をしている藤木紫苑記者も一緒にお伝えしていきます。藤木さん、5月は「ゆりかご」や内密出産をめぐるニュースが続きました。
(藤木紫苑記者)
5月、熊本市の大西市長が内密出産の法制化などを求めてこども政策担当大臣に直接、要望書を提出しました。内密出産とは、妊娠を周囲に明かせない人が、病院の担当者のみ身元を明かして出産するもので、自宅などでの孤立出産を防ぎ母子の健康上の安全を図るとともに将来のために生みの親の身元の情報を保存しておくことが可能となる仕組みです。
2021年末から慈恵病院が実施していますが、生まれた子どもが将来、自分の出自を知りたいと希望した場合に備え、どのように対応すべきかが課題です。熊本市と慈恵病院が共に設置した検討会は「国の専門機関で情報を保存することが望ましい」などとしています。これを受けて要望書では国の機関の設置や他にも全国での24時間相談所の開設も求めました。
■熊本市・大西一史市長
「日本における制度、いまの現状や現場での状況を踏まえて適切な法整備につなげていただきたい」
(藤木紫苑記者)
「こうのとりのゆりかご」ができて18年。「内密出産」を始めて3年半ほどですが、法整備もないまま子どもの受け入れが続いている状況です。
(武田真一さん)
子どもとしては、自分の親がどういう人だったのか知りたいという思いがあると思いますが、一方で匿名性も担保しなければいけない。その中で出自情報をどう管理していくのか、いま大きな課題になっているということなんですね。
(緒方太郎キャスター)
宮津さんは「子どもにとっての情報を得られるか否か」ということは、どのように大切だと考えますか?
(宮津航一さん)
子どもにとって自分の生い立ちを知ること、その情報が担保されているのは、ものすごく大切なことだと思っています。実際に私はいまから18年前、ゆりかごに預け入れられた時にはベビーベッドの上に服と靴が置かれてあったということで、それからは残念ながら自分の生い立ちがわからない幼少期を過ごしました。周りの友達と出自を比べて、もどかしさだったり違いを感じることはありましたけど、それ以上に周りの人が自分の生い立ちをプラスに伝えてくれていましたし、実際に生い立ちが後からわかったときにはわかってよかったとそういう喜びが大きかったことを今でも覚えています。
(武田真一さん)
自分がいったいどこから来たのかわからないというのは子どもたちにとって苦しみだと思います。保護者の思い、子どもの思いに寄り添うように何か具体的にうまい方法がないものかと思うのですが、宮津さんは具体的なアイデアはあるんでしょうか?
(宮津航一さん)
親の匿名性を守ることと、子どもの出自を知る権利を守るのは難しいと思います。しかし、双方に言い分はありますけど、最終的には子どもたちのために社会がそこに目を向けて法制化だったり親への説得が大切だと感じる。
(武田真一さん)
東京でも「ゆりかご」のような仕組み、内密出産の取り組みが始まった。大阪の泉佐野市の病院でも行政が主体となって取り組むことを検討しているという報道も最近ありましたけど、宮津さんは全国への広がりどう感じていますか?
(宮津航一さん)
熊本に最初にゆりかごができて18年、東京でもできて大阪でもこういう動きがあることは私としては当事者としてとても前向きにとらえています。社会の理解は少しは進んだのではないかと思っています。最終的には、ゆりかごや内密出産がないのが理想ですのでそこを最終的なゴールに持っていかなければいけないと思います。
(藤木紫苑記者)
内密出産に関する法律というものがない、つまり一定のルールがないことで各々のそれぞれルールに従って取り組んでいる、思いがあってもバラバラですと求めてくる人にとっても、混乱のもとになる。ですので「一定のルール」が必要なのではないかというのが慈恵病院や熊本市の考えです。
(武田真一さん)
全国ある程度の安心が担保されるように仕組みづくりが大切。例えば大阪の泉佐野市のように公が主導して取り組むことになった場合は、納税者の取り組み、有権者、市民の理解が得られるのかが課題だと思う。そのためには、先進地である熊本から意義を発信していくのが非常に大事だと思うのですが宮津さんは、どういう風に取り組んでいこうと思われますか?
(宮津航一さん)
慈恵病院のゆりかごは18年間の蓄積や経験がありますので、できるだけ生かしながら第二のゆりかご、第三のゆりかごが広まっていってほしいと思っています。
(緒方太郎キャスター)
宮津さんの次の世代の子どもたちへの思いが伝わりますが、宮津さんはこのような活動をなさっています。親子に学びの場を提供し子どもたちが夢と希望を持つきっかけにしてほしいと「子ども大学くまもと」を主催し、県内にこれまでに3回開催してきました。
■子ども大学くまもと・宮津航一理事長
「必ず家族と呼ぶ人がいると思う。どういう人たちが家族かぜひみんなに考えてほしいです。僕の中での家族像は血がつながっているということではなくて最後まで味方でいる存在が家族だと思う」
(緒方太郎キャスター)
宮津さん、家族像について話していましたがどんな思いでお話をしている?
(宮津航一さん)
子どもたちが預け入れられた後幸せにならないといけないとわたしは思っています。わたしは里親の家庭に引き取られましたけど、どんな境遇であっても置かれた場所で子どもたちが幸せになるためにまずはそういう思いをたくさん伝えていきたい、届けていきたいと思っています。
(武田真一さん)
VTRの短い言葉にも心を打たれましたが、さきほどおっしゃった本来がこういった施設がないほうがいいというのはすごく響くんです
ゆりかごに子どもを委ねざるを得ない背景には貧困とかDVなど様々な難しい問題が絡み合っているのだと思います。ただ、生まれてくる子どもたちの命を輝かせる意義は私が宮津さんから受け取ったように尊いものだと思います。できない理由を数えていくのではなくて、なんとか多くの方々の共通の理解を得て、うまい方法を考えつつ、ルールも考えつつ全国に広がっていってほしいと思いました。
(緒方太郎キャスター)
スタジオに「ゆりかご」当事者の宮津航一さんに話を聞きました。ありがとうございました。最後にメッセージはありますか?
(宮津航一さん)
わたしも当事者としてこれからどんどん発信をしていきたい。まずは社会の理解が広がること、必要、不必要ではなくその域を超えて「ゆりかご」「内密出産」への理解が広まることを願っています。