(緒方太郎キャスター)
「記者のコトバ」緒方大樹記者とお伝えします。
(緒方大樹記者)
6月から刑法の一部が改正され「懲役刑」や「禁錮刑」といった刑罰が廃止され「拘禁刑」に変わります。拘禁刑の特徴は、「更生のために必要な作業・指導を行うことができる」というものです。
(緒方太郎キャスター)
受刑者に合わせたプログラムで更生を促すんですね。なぜいま変わるんでしょうか?
(緒方大樹記者)
理由の一つは「再犯」の防止です。去年新たに刑務所に入った受刑者のうち、刑事施設への入所が2回目以上の再入者率は55%に上っています。(※2024年のデータ・2024年版再犯防止推進白書(法務省)より)拘禁刑の導入に先駆けて、熊本刑務所では更生に向けたある取り組みを進めています。変わる刑務所の最前線を取材しました。
【VTR】
熊本市中央区渡鹿の熊本刑務所。収容されているのは、半数以上が殺人や強盗致死傷などの罪で刑期が10年を超える受刑者です。
規則正しい刑務所での生活。刑務作業中はもちろん食事中も刑務官の目が光り、休憩時間以外は原則受刑者の自由な会話は制限されています。こうした刑務所の処遇が、いま変わろうとしています。
■看守部長(刑務官歴18年目)
「これまではやっぱり収容者の話を聞くな、こっちが指導しなさいという考えで仕事をしてきた。そこから話を聞きなさいと。そこに対しての戸惑いはありました」
刑務官歴18年目の男性。熊本刑務所で去年から始まった取り組みの中心メンバーです。それが対話を用いた「リフレクティング」という取り組み。北欧の精神医療の現場で生まれた対話のプロセスです。
熊本刑務所では、「話し手」となる受刑者と「聞き手」となる刑務官のほか、2人の会話を聞く「観察者」で行います。
①まず「話し手」の受刑者が自分の話したい話題を「聞き手」の刑務官に話します。
②「観察者」は、近くでその会話の様子に耳を傾けます。
③その後「観察者」と「聞き手」が受刑者の会話の印象などを話し合うことで、受刑者が「観察者」に回ります。
このプロセスを経て、受刑者が自分が話した内容を客観的に受け止める機会にするのが狙いです。
この日「話し手」となったのは、元暴力団組員の受刑者・Aさん(40代)。強盗殺人などの罪で無期懲役が確定し、約20年服役しています。4か月間指導を受けて、今回、初めて本格的なリフレクティングに臨みます。
■「話し手」Aさん
「被害者の遺族のことを考えたら、無期懲役なら刑務所から出てきてほしくないと思われているなら出ていくのは良くないのかなと思い、年々(自分を)待つ人の気持ちを考えたら1日も早く出てきてほしいと思っている人の気持ちにこたえたい。そう思ったら最近自分の中での葛藤が出始めた。被害者のこと自分の犯した罪のことを見つめながら家族たち待ってくれている人を考えながら、まず自分の根本を変える」
■「観察者」
「単に自分は変わらずに相手をとにかく暴力で変えるというよりも強い姿勢なのかな。自分が変わることって一番勇気がいるじゃないですか」
自分の話がどう受け止められたのか。受刑者は聞き手と観察者の会話から、自分に必要な言葉や考えを選び取ることができます。
■「話し手」Aさん
「少し緊張したのですが、話していくうちに自分の話したいことをありのまま話せて人の意見も聞けたので、貴重な時間をもらえてありがたい」
取り組みを始めて4か月。看守部長もAさんの変化を感じていました。
■看守部長(刑務官歴18年目)
「発言の変化を自分は一番感じているこれまでは被害者への感情気持ちをあまり話す機会がなかった。被害者に対しての感情を話してくるようになったことがまず一番変化したところ」
刑務官が押しつけるのではなく受刑者が自ら気づきを得て罪と向き合うことにつなげる。リフレクティングが目指すのは、そうした更生への道です。
■緒方大樹記者
「いま事件当時の自分に言えるとしたら言いたいことは?」
■「話し手」Aさん
「今の自分が事件当時の自分に言うなら『もうやめろ』ってその一言しかない」
対話を通して受刑者はどう変わるのか。熊本刑務所は大きな転換点を迎えています。
■熊本刑務所・大坪誠所長
「刑務所は懲役刑の執行という意味での懲らしめの場所から受刑者の立ち直りを支援する場所に変わる。全国で対話実践は取り入れられているが当所はその先頭に立って、拘禁刑時代にふさわしい受刑者処遇を牽引する役割を果たしていきたい」
【スタジオ】
(緒方大樹記者)
今回、私が取材したAさんのような無期懲役囚であっても、10年以上服役し、再犯のおそれがないと判断されるなどの条件を満たせば、仮釈放が認められることがあります。拘禁刑の導入や熊本刑務所の取り組みを見ると、受刑者の更生に向けた動きが加速していると感じます。一方で、事件の被害者や遺族はこうした流れをどう受け止めているのか?話を聞きました。
【VTR】
2011年に当時3歳の娘・清水心ちゃんを殺害された誠一郎さんと真夕さんは。
■清水誠一郎さん
「精一杯気持ちを入れてやってもらわないと人の心は簡単に動かないと思う」
■真夕さん
「罪を犯した人には国からサポートが出る。結局被害者には国ではなく民間の方々が力を貸す。簡単に言うと不平等感みたいなものがすごくある」
25年前に起きたバスジャック事件の被害者山口由美子さんです。
■山口由美子さん
「私は被害者ですけど加害者の更生というのはものすごく大事だと思っている」
事件の加害者が17歳の少年だったことから、山口さんは加害者の立ち直りの重要性を感じています。
■山口由美子さん
「被害者が一番求めることは再犯してほしくないということだと思うそのためにも更生してほしい」
熊本刑務所でリフレクティングの共同研究を進める大学教授は。
■矢原隆行教授
「当然加害者側に対する取り組みと並行して、現状よりも手厚く被害者の方々への支援の体制は社会の中で必要というのは不可欠の話。どっちを優先するという話ではなくて両方が大切にされていかないといけない」
【スタジオ】
(緒方大樹記者)
取材を進めて被害者支援と加害者の更生は両輪だと感じました。どちらか一方だけを拡充するのではなく、どちらも置いて行かれないように見守っていくことが必要です。