熊本地震 連載・データ集

基礎からわかる被災者の税金               2017年2月16日

 今年は確定申告をしよう

170216申告初日.jpgのサムネイル画像

今年の確定申告が始まりました。いつもの年ならサラリーマンで申告が必要なのは①年収が2000万円超の人②勤めている会社からの給料以外に、年間20万円を超える副収入があった人――などに限られています。しかし、県内では熊本地震で被害を受けた人たちで、税務署は例年以上の混雑になっています。益城町などで行われた税務署の事前相談会にも多くの人が訪れました。
これは、地震で被災した人の多くは、今年確定申告をすると、会社から天引きされて納めていた所得税が戻ってくる可能性があるからです。熊本国税局では、その数は10万人に及ぶのでは、と予測していますが、本当のところは個々の被害の状況などを申告してもらわなければわかりませんから、もっと多いかもしれません。ともかく、家などが被災した方は、今まで確定申告をしたことがない方も、今年は確定申告することをお勧めします。
税務署とはふだんあまり付き合いがなく、敷居が高いとお考えの方も多いでしょう。所得税を減免してもらおうと思ったのに、逆に細かい指摘をされて結局余計に税金を払えといわれたらどうしよう、などと尻込みしている方もいるかも知れません。
そんな方のために、「基礎からわかる被災者の税金」と題して熊本地震で被災した方に向けた確定申告の基礎知識を短期連載します。わかりやすく説明するつもりですが、仕組みはかなり複雑です。連載をお読みになった方も、必ず税務署の申告窓口でもう一度ご確認ください。

 15.jpg確定申告って何?

まず、これまでなじみがなかった方のために、確定申告と所得税の決め方について説明します。
確定申告とは、前年の1月1日から12月31日までの間に所得のあった人が、文字通りその所得の額を「確定」させるために税務署に「申告」する手続きをいいます。申告の結果、給料から天引き(源泉徴収といいます)されて納めた所得税や東日本大震災の復興に充てる復興特別所得税(以下、あわせて「所得税」と表記します)が少なすぎた場合は追加で税金を納め、多すぎた場合は納めすぎた税金が戻ってくる(還付といいます)ことになります。
所得税は年間の収入に応じて納めますが、収入の全額に課税されるわけではありません。さまざまな課税対象から外してよい経費が認められており、それを差し引いて(控除といいます)残った額に税金がかかるのです。図に示した通り、サラリーマンの場合、まず「年収」から背広代などサラリーマンが仕事をするうえで必要な経費(給与所得控除ともいいます)を差し引いた年間の「所得」を出し、そこからさらに既婚者が妻(夫)と暮らす費用である配偶者控除、子どもの養育費などを差し引く扶養控除、家族の医療費を差し引く医療費控除など、さまざまな種類の控除を差し引いて、課税対象となる所得(課税所得といいます)を出していきます。それぞれの控除はどの程度差し引いていいか、細かい決まりがあります。
しかし、多くのサラリーマンは、自分にいくらの必要経費が認められているのかもわからないのではないでしょうか。それでも毎年所得税が正しく納められているのは、ほとんどの社員が受ける控除については会社が計算し、「一人ひとりの税額はこのくらいになるだろう」と見込んで、毎月の給料やボーナスからあらかじめ天引きしているからです。会社は毎年年末になると、天引きした税金が正しいかどうか、改めて計算して個々の所得税額を足したり引いたりします。このことを「年末調整」といいます。

所得税の仕組み.jpg<図>年収から所得税額が決まるまで

会社は年末調整が終わった年明けに、社員に「源泉徴収票」を配ります。源泉徴収票は①昨年のあなたの収入はこれだけでした②そこからサラリーマンとして働くための必要経費を差し引いた所得(給与所得)はこれだけでした③さらにそこから主な控除を差し引いた課税所得はこれだけでした④したがって天引きしてきた所得税を調整して、あなたに代わってこれだけ所得税を納めました――と社員に通知するものです。所得は会社が申告し、税金も会社が納めているから、サラリーマンの多くは税務署に申告しなくても、きちんと税金が納められているのです。
しかし、会社は社員の収入や所得の額はわかっても、すべての支出までつかんではいません。医療費控除のように自分で計算し、税務署に申告しなければならない控除もあります。こうした支出を所得からさらに差し引き、課税所得を減らすには、自ら確定申告をしなければなりません。
熊本地震の被災者に対しては、地震で受けた損害額(損失額)や災害関連の支出を所得から差し引く「雑損控除」と、大きな被害を受けた人の所得税額を減らしたり免除したりする「災害減免法」という2つの仕組みがあります。詳しい仕組みは後で説明しますが、この被災者救済の仕組みは、いずれも確定申告をしないと受けられません。いくら被害が大きくても、確定申告をしないと、すでに天引きされている所得税は1円も戻ってこないのです。

事前相談会(熊本国税局①).jpg

 15.jpg知らずにあきらめたら損をする

上の写真は確定申告を前に、益城町で開かれた事前相談会の風景です。被災した多くの方が、確定申告をすれば所得税が戻ってくることは知っているのですが、相談会に出席した方の中には「面倒なわりに、いくらも戻ってこないだろう」と漠然と考えていた人や「損害額が大きすぎて、税金がゼロになっても焼け石に水だ」と思っていた人もいたようです。「公的な義援金だけでなく、親せきからも見舞金をもらっている。確定申告すれば、こうした収入にかかる所得税が増え、税金は安くならない」と誤解していた人も多かったそうです。
しかし、雑損控除は家だけでなく、墓やブロック塀の修復費用も対象になり、被災地に住んでいなくても受けられることや、昨年の所得税から引ききれない場合は、最大で震災の翌年以降3年間にわたって所得税を少なくできることをご存じでしょうか?しかも所得税が少なくなれば、県や市町村に納める住民税の納税額も少なくなります
被災して昨年は働けなかったので、そもそも所得税を納めていないという人は、今年は確定申告をしても所得税は減免されません。しかし、申告は5年前までさかのぼって行うことができます。「熊本地震で家が全壊し、けがをして昨年は職も失った。しかし、今年からは会社に勤め、収入も元に戻った」という人は、2018年の確定申告で17年の所得を申告する際、16年(熊本地震の年)の家の被害について雑損控除を申告できます。

 15.jpg申告に必要なもの

「り災証明がないと申告できない」という誤解があるようですが、そんなことはありません。り災証明書があれば手続きがスムーズに進みやすくなりますから、り災証明書をお持ちの方は申告には忘れずに持っていくようお勧めしますが、り災証明書がなくても、被災したことや被害の程度が証明できる書類があれば申告はできます。税務署が用意してほしいとしている書類は下の表の通りです。それぞれの書類がなぜ必要なのか、は最後まで読んでいただければわかると思います

必要書類.jpgサラリーマンの場合、確定申告に欠かせないのは会社から出る源泉徴収票です。「申告する気がなく、源泉徴収票は捨ててしまった」という方は、会社に届け出ればすぐに再発行してくれるはずです。
なお、今年の確定申告では昨年までとは違って、マイナンバーの記入が必要なので注意してください。まだマイナンバーカードを取得していない方は、通知カードと身分を証明する書類が必要です。郵送で確定申告をする方は通知カードや身分を証明する書類のコピーを添える必要があるので、あらかじめ用意してください。

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所得税が戻ってくる2つの制度

益城町中心部.jpg

 15.jpg「雑損控除」と「災害減免法」

前回説明した通り、熊本地震で被災した人は確定申告をすると、天引きで納めた所得税が戻ってくる可能性が大きいのですが、戻ってくる仕組みは2通りあります。多くの人は「雑損控除」の仕組みを使うとみられますが、もうひとつ「災害減免法」の適用を受けることもでき、被害の状況などによってはこちらの方が雑損控除より所得税の減免額が大きくなる場合があります。災害減免法と雑損控除の減免を受けるにはともに確定申告が必要ですが、両方の減免を受けることはできず、どちらか有利な方を選ぶことになります。

雑損控除とは、空き巣に遭ったり、台風や地震など、自然災害で損害を被ったりした人の生活再建を後押しするため、家や家財、車、さらには災害に関連した支出を所得から差し引いて(所得控除といいます)、所得税を減免する仕組みです。一部損壊以上のり災証明書がある方は、損害額などに応じて所得税が減免され、還付という形で戻ってくる可能性があります。

一方、災害減免法による税の減免は、所得が1000万円以下で、家と家財のどちらかの損害が価格(時価)の2分の1以上に達した場合に受けることができます。昨年の所得が1000万円を超えた方は、地震で大きな被害を被ったとしても、雑損控除しか選択できません。

雑損控除と災害減免法では、所得税を差し引く対象となる損害の範囲も異なります。雑損控除は「納税者やその家族が持つ通常の生活に必要な資産」が対象で、住宅や家財、衣類、現金などの損害(損失)や、災害に関連するやむを得ない支出も所得税減免の対象になります。これに対して災害減免法の対象となる資産は住宅と家財のみで、どちらかで時価の2分の1以上の損害があった場合だけが対象となります。雑損控除は被害の割合が減免額に関係しますが、災害減免法では減免割合は年間所得によって決まり、被害が2分の1以上なら、70%でも100%でも関係ありません。減免の方法も違い、雑損控除が所得額を減らす「所得控除」なのに対し、災害減免法は所得税額を減らす「税額控除」で所得税を減免します(連載1回目の「年収から所得税額が決まるまで」の図を参照してください)。

雑損控除については後でくわしく説明します。まず災害減免法についてまとめると、

税2の1.jpgということになります。

 15.jpgどちらを使ったほうが有利なのか

2つの仕組みのうちどちらを使ったほうが有利かは、所得額や被害の程度で変わってきます。所得500万円以下の方は雑損控除より災害減免法の適用を受けたほうが有利となることが多いともいわれますが、損害額によっても左右されるので一概には言えません。下の例は国税庁の資料ですが、一般的に税の減免は所得控除より税額控除のほうが大きくなるといわれ、古くて時価が安い家が全壊したケースのように、被害の程度は大きいが、損害額(損失額)があまり大きくない場合は、災害減免法の方が有利なようです。

雑損と災害減免.jpgただし、災害減免法は震災の年の所得税だけを減免するもので、翌年以降に繰り越すことができません。これに対して、雑損控除は最大3年間、損害額を繰り越して所得から差し引けます。家が全壊するなど損害額が大きく、1年で控除しきれない場合は、減免効果がその年限りの災害減免法より、損害の繰り越しができる雑損控除を選択するほうがトータルの減免額は大きくなることが多いようです。

どちらのケースを選ぶことになるのか、がおおまかにわかる国税庁作成のチャート図をつけておきます。税務署に確定申告に行くと、個々のケースに応じてどちらを選んだほうが有利かも含め、相談に乗ってくれます。税務署は被災者の生活再建を応援するため、被災者に有利な方法を教えてくれるはずですから、被災の状況を話して相談に乗ってもらいましょう。

CYA-TOZU.jpg<図>被災者の所得税を減免する2つの仕組み(図をクリックすると大きくなります)

災害減免法の適用を受けられない、または受けない人は、雑損控除を申告することになります。

 雑損控除の対象となるのは

雑損控除は、地震や火災などで痛手を受けた被災者の生活再建を後押しするため税を減免する仕組みで、所得から差し引く(控除する)ことができる地震による損害(損失)を幅広く認めています。家や家財、さらに通勤や通学で使っていた自家用車の損害が控除でき、さらに生活を元通りにするためのやむを得ない支出も控除の対象です。ただし、その全額が控除できるわけではありません。計算方法は順を追って説明しますが、まずは多くの方の損害額が最も大きい家(住宅)の考え方をもとに、その仕組みを説明していきます。

15.jpg算定のベースになるのは「地震が起きる直前の時価」

雑損控除では家に限らず、損害額を「地震が起きた時の時価」をもとにするのが大原則です。20年前に1億円の豪邸を立てた方は、昨年の地震の時には家は古くなって、時価は下がっていたはずです。家の時価の計算では「元の価格(取得価格)の1割は価値が残る」という前提で、どのくらい価値が下がったか(減価償却分)を計算し、そこから被害の程度に応じて損害額を算出します。

例えば家を1000万円で買った場合は、その9割の900万円をもとに、古くなって価値が下がった分の計算をします。減価償却分が300万円(この計算方法は次回以降に説明します)とすると、家の時価は700万円です。家が全壊の場合は100%、半壊の場合は50%、一部損壊は5%の価値が失われたとみなしますから、

 全壊なら700万×1.0=700万円

 半壊なら700万×0.5=350万円

 一部損壊なら700万×0.05=35万円

が損害額となるわけです。

家の被害の割合.jpgり災証明書の分類には大規模半壊がありますが、り災証明書をもとにした税務署の簡便な計算方法では、大規模半壊の場合、被害割合は半壊と同様に被害割合は50%で計算することになっています。り災証明書の判定に不服で2次審査など申請している方や、大規模半壊の証明をもらったが、自分はどうみても全壊だと思っている方は、手持ちの書類や写真など、被害の程度を説明できる資料を持参して、そのことを説明する必要があります。税務署は公的機関が発行したり災証明書の判断を重視はしますが、常にり災証明書の判定に縛られるわけではありません。上の例で示したのはあくまで簡便法、つまり簡単便利な計算方法を使った場合の計算方法で、損害額や損害の程度がきちんと証明できれば、簡便な計算方法を使わない控除も認められる可能性があります。

家以外の家財や車の損害については、り災証明書には記述はありません。テレビやタンス、仏壇などたくさんある家財の取得価格や時価を一つひとつ計算して足し上げたり、走行キロ数や細かいキズの有無によって変わる車の時価を出すのは難しいので、損害額の計算では家とは別の簡便な計算方法を使います。この方法は後で説明します。

15.jpg修理費は「災害関連の支出」

話を家に戻します。雑損控除で認められるのは家の損害額だけではなく、災害関連の支出として家の修理費も一部が控除の対象になります。ただし、家の新築は修理ではないので新築費用は控除できず、修理費についても損害額を除いた分しか対象になりません。修理費が家の損害額より少なければ、結果的に雑損控除の対象にはならないことになります。

例えば、先ほどの例で一部損壊の家の修理費が40万円かかった場合、損害額は35万円だったので、損害額と修理費をあわせると

40万+35万=75万円

になります。しかし、修理費は損害額を除いた分しか対象にならないので、控除の対象になる修理費は

40万−35万=5万円

だけです。家の損害額と合わせて雑損控除の対象になるのは。

(40万−35万)+35万=5万+35万=40万円

となるわけです。修理費が30万円なら、雑損控除の対象は損害額の35万円のみとなります。

益城町空撮.jpg家に関連する災害関連支出の対象になるのは修理費だけではありません。とりあえず雨漏りをしのぐためのブルーシートの購入費や、家具を運び出したり、解体したりした費用も災害関連支出の対象となります。益城町などでは家そのものの被害は小さかったものの、地盤の修復にかなりの出費をしたという方も多かったと聞きますが、液状化や地割れで軟弱になった地盤を修復した場合、その修復費も災害関連支出の対象です。こうした支出はり災証明書だけではわからないので、申告の際は工事費の領収証などを忘れないようにしてください。

15.jpg墓石の修理費は3割が対象に

災害関連支出は家屋本体の費用だけでなく、門やブロック塀も含まれます。家から遠く離れた墓地にある墓の修復費も、倒れた墓石の除去費用や墓石代も含めて、元に戻すのにかかった費用の30%が、原則として雑損控除の対象になります。墓については損害額と修理費をきちんと計算することが難しいので、元に戻すのにかかった総額の30%を修理費とみなすのです。東京に住んでいて家などには熊本地震の被害はなかったが、熊本にある先祖代々の墓が倒れて修復費がかかったという方は、東京の最寄りの税務署に雑損控除の申告をしてください。

熊本市内の墓地.jpg一方で、控除の対象になるのは生活を元通りにするのに必要な費用だけです。壊れた家から運び出した家具の置く場所がないので、新築のアパートの部屋を借りて倉庫代わりにした場合、その家賃まで災害関連支出とは認められるかどうかは微妙です。粗末な石を置いただけの墓が倒れたので、「この際だから」と高級な御影石を使って立派な墓地を造った場合や、一部損壊した屋根の瓦を高級ブランド瓦にした場合は、元通りにする以上にかかった費用は控除の対象になりません

ただ、その場合でもほかに手がなければ控除の対象になるケースもあります。ブロック塀は昔より地震に強いものにすることが求められており、今は中に鉄筋を通すのが普通ですから、元に戻すと地震の前のブロック塀より立派なものになってしまいます。ブランド瓦についても、使う気はなかったのに業者から「今は瓦不足でこれしかない」といわれてやむなく使ったというケースもあるかもしれません。合理的な理由があり、それをきちんと説明できる場合は、元通りにする以上の費用についても雑損控除が認められる可能性があります。

3-2HYOU.jpg一方で、災害関連の支出といっても、水道が通るまでのミネラルウオーター代や、ガスが開通するまでのカセットコンロの代金など、家や家財に関係しない支出は雑損控除の対象外です。また、別荘は生活再建に不可欠とはみなされず、損害額も修理費も控除の対象にはなりません。1点30万円以上の書画骨とうや掛け軸も、同じ理由で控除の対象外です。言い換えれば、書画や骨とう品は、いくら高価なものでも1点30万円までしか雑損控除はできないことになります。

15.jpg空き巣被害は対象、詐欺被害は対象外

なお、すでに説明した通り、雑損控除は地震など災害だけでなく、空き巣の被害額も対象になります。熊本地震の後には一時、被災地で空き巣が横行しました。避難生活をしていた間に空き巣に入られたという人は、地震による家財の損害が認められなくても、盗難被害による雑損控除が認められる可能性があります。一方で、地震の後には町内会の役員と名乗る男が「義援金を集める」などといって金をだまし取ったケースもあったようですが、詐欺による被害は雑損控除の対象外です。

 損害額の計算方法

これまでに説明した通り、雑損控除の損害額は買った時の価格をもとに、年月の経過を経て価値が減った分(減価償却分といいます)を差し引いて地震が起きる直前の時価を出し、それに全壊なら100%、半壊なら50%というように、損害の程度を反映させて算出します。

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15.jpg家の損害額の計算方法

減価償却分は1年ごとに価値が減じていく割合(減価償却率といいます)に、住み始めてからの年数をかけて計算します。減価償却率は下表のように、平均的な家の構造別の寿命によって決まります。例えば木造住宅の耐用年数は33年、すなわち1年ごとに33分の1ずつ価値が減っていくと考えて、1÷33=0.031に築年数をかけて減価償却率を出します。1年に満たない場合6か月以上は切り上げ、6か月未満は切り捨てます。

建物償却率.jpgすでに説明したように、どんな家でも最後まで1割の価値は残るとみなして計算しますが、一方で耐用年数は通常の年数より5割程度長くして、時価が高く出るようになっています。

10年前に1000万円で買った木造住宅の減価償却分は、

 1000万×0.9×0.031×10年=900万×0.31=279万円

となりますから、この住宅の時価は

 1000万-279万=721万円

になります。半壊だった場合の損害額は

 721万×0.5=約360万円

となるわけです。

15.jpg買った価格が分からない場合は

最初にいくらで家を買ったかわからない、またはわかっているが、売買契約書が地震でなくなってしまった、という方もいるでしょう。東日本大震災では、家が根こそぎ津波にさらわれてしまい、契約書が一切ないという人がたくさんいました。取得時の価格が分からないと減価償却費を差し引く元がなく、損害額の計算ができません。そのような場合は、床面積と建築年月日と家の構造(木造か、鉄筋かなど)から、だいたい買ったときはこの程度の価値だっただろうとみなし、そこから時価を計算します。

みなし計算方法.jpg

上の図に示したのは、構造別の1平方メートル当たりの全国平均の建築費です。この数字に床面積をかけて取得時の推定価格を出し、その9割に年数に応じた建物構造別の償却率をかければ減価償却分が計算できて、取得時の価格が分からなくても時価が出せるというわけです。こうしたデータは登記簿謄本にすべて記載されていますので、申告の時にお持ちになると計算がスムーズになります。

なお、マンションの共用部分については、個々の住居の分譲価格(取得価格)に含まれています。専有の住居部分が無傷で、共用部分のみが損壊した場合でも雑損控除の適用が受けられる可能性があります。

15.jpg家財の損害額の計算方法

家財についても、テレビ、たんす、冷蔵庫など一つひとつの価値の減少分を計算して時価を出し、それを足し上げていくのが原則です。しかし、すべての家財の取得価格や、買ってからの年数を調べて時価を計算するのは大変面倒で、難しいことです。そこで、家族構成から平均的にこの程度の家財を持っていたとみなして損害額を計算する「簡便法」を使うことができます。

家財みなし表.jpgそれを示したのが上の表です。簡便法では、世帯主が45歳の夫婦2人なら家財は1100万円、さらに同居する大人(18歳以上)は1人130万円、子ども(18歳未満)は1人80万円を加算します。世帯主が45歳の夫婦に同居する20歳と16歳のきょうだいがいたとすれば、この4人家族の世帯は地震の時に

 1100万+130万+80万=1310万円

の家財を持っていた、とみなすわけです。この方法なら実際に一つひとつの家電製品や家具をいつ、いくらで買ったか、それがどの程度壊れたのかわからなくても大丈夫です。世帯主の年齢だけで家財の総額が分かるの?、と思う方もいるでしょうが、地震保険の家財保険に入るときの補償額もこの方法で決めることが多いようなので、ある程度実態を反映しているのでしょう。

簡便法を使った場合は、家財の被害の程度は家の被害の程度と同じとみなします。「家は一部損壊ですんだが、家財はほぼすべて傷ついた」という場合でも、家の被害の程度が5%なら、家財も被害の程度は5%とみなされます。

先ほどの世帯主が45歳の夫婦で、20歳と16歳のきょうだいが同居している例では、家が半壊なら家財の損害額は

 1310万×0.5=655万円

家が一部損壊なら家財の損害額は

 1310万×0.05=65万5000円

となるわけです。家と家財の被害の程度が大きく異なり、それを控除額に反映させたいという方は簡便法は使わず、家財の損害額を足しあげて申告することになります。

15.jpg車の損害額の計算方法

車償却率.jpgのサムネイル画像車は中古車の下取りなどでは車種や走行キロや細かいキズの有無などをみて価格(時価)を査定しますが、雑損控除での時価の計算には簡便法があります。最も使うケースが多いであろう乗用車の減価償却率は上の表の通りです。排気量2リットル以下の小型車は普通車に含みます。トラックの償却率は上の表にあげた乗用車の償却率とは異なるので、申告窓口でご確認ください。ただし、軽トラックの耐用年数と償却率は軽自動車と同じです。オートバイの損害も雑損控除の対象になり、乗用車や貨物車とは別の償却率を使って時価を計算します。なお、自転車はここでいう「車」には含まず、家財の扱いになります。

車の損害の程度は全壊、半壊、一部損壊といった判断が難しいので、修理費をそのまま損害額として認めるのが原則です。時価200万円の車の修理費が50万円かかったとしたら、50万円が車の損害額となります。ただ、修理費(=損害額)として認められるのは車の時価までです。時価10万円の旧型車の修理費が20万円かかった場合は、損害額は10万円で、残りの10万円は災害関連支出として申告することになります。全壊した家の新築費用と同じく、新車への買い替え費用は控除の対象になりません

こうして家と家財と車の損害額と、さらに前回説明した災害関連の支出が計算できました。しかし、この全額が雑損控除として所得から差し引けるわけではありません。

 雑損控除額の計算方法

15.jpg保険金を損害額から差し引く

家と家財と車についての損害額と、災害関連の支出は雑損控除の対象ではありますが、その全額が控除できるわけではありません。地震保険などで補てんされた額は所得控除の対象にはなりませんから差し引く必要があります。農業が盛んな熊本県では、地震災害をカバーする「建物更生共済(建更=たてこう)」に加入している人が多いと聞きますが、建更の共済金も扱いは保険金と同じです。

ただし、自治体からもらった義援金や災害弔慰金、支援金、親戚などがくれた見舞金は、原則として損害額から差し引く必要はありません

ちなみに地震保険や共済金による補償額には所得税はかかりません義援金や見舞金などにも所得税はかかりません。地震保険の保険金がおりた方は、損害額からその分を差し引かなければならないため雑損控除の額は小さくなりますが、「保険金に所得税がかかって確定申告すると損をする」ということは基本的にはありません。親戚からの見舞金は損害額から差し引く必要もなく、所得税もかかりませんが、社会通念上あり得ない多額の見舞金は見舞金とは認められず、贈与税がかかることがあります

15.jpg最後に所得の10%を差し引く

こうして出てきた額から、最後に所得の10%を差し引くと、ようやく雑損控除の実額が出てきます。ひとつの式にすると

5-1四しき.jpgとなります。保険金額は家と家財と車、さらに災害関連支出のそれぞれから差し引くことに注意してください。例えば家財の損害額が100万円で、家財保険が150万円出た場合、差し引くのは100万円だけです。引ききれない50万円を、家や車の損害額から差し引く必要はありません。

15.jpgもうひとつの控除額と比べて大きい額を選ぶ

ようやく雑損控除額が出ましたが、実は、式は家や家財や車の損害額は小さかったが、災害関連支出が大きかった方を救済するため、もうひとつの出し方があります。ものすごく大きな旧家が一部壊れた(=家の損害額は小さい)だけだが、大きい家なので大量のブルーシートが必要だった、という場合などは、家の損害額より災害関連支出の方が多いこともあり得ます。そこで、

5-2SIKI.jpgでも控除額を計算し、①の式と②の式の大きい額を控除できるというルールになっているのです。ただし、すでに説明しましたが、災害関連の支出には家などの修理費を含めることはできますが、あくまで損害額を差し引いた額で、損害額と修理費を二重にカウントすることはできません。

15.jpg所得税が戻ってくる目安は

多くの方は家や家財の損害額のほうが大きいでしょうから、①式で雑損控除を出すことになると思われます。①つまり、家、家財、車の損害額に災害関連の支出を足した額から地震保険や建更の保険金を差し引いてもまだ所得の1割を超えている人は、確定申告すると雑損控除で所得税が戻ってくることになります。つまり、

まとめフリップ.jpgが、確定申告をして雑損控除を受けるかどうかの大ざっぱな目安となるわけです。年間所得から雑損控除分を差し引いた残り(課税所得)には当然所得税がかかりますから、雑損控除を受ければ所得税がゼロになるわけではありません。いくら損害額と災害関連支出が幅広く認められるといっても、損害額が小さい、所得が多い、地震保険の保険金が下りたという方の中には、被災者でも控除を受けられないケースもあります。

15.jpg雑損控除は繰り越せるが...

反対に、損害額が大きい方の中には、雑損控除の控除額が昨年の所得を上回り、引ききれないという方もいるでしょう。その場合は3年の繰り越しができます。「繰り越し」が3年ですから、所得から差し引けるのは昨年、今年、来年、再来年の4年分となります

ただし、雑損控除は最優先で控除するルールになっています。例えば所得が500万円、雑損控除額が600万円、医療費控除などその他の所得控除額が50万円ある、という方は、500万円の控除によって所得はゼロ、したがって所得税もゼロとなります。ただし、500万円はすべて雑損控除による控除とされ、翌年に繰り越せる雑損控除額は150万円ではなく、100万円となります。

カット写真.png

* * *

まだ家が工事中で修理費がいくらかかるかわからない方もいれば、大きな損害がなかったのでり災証明書をとっていない、という方もいるでしょう。熊本地震による損害は昨年、一斉に発生しましたが、復旧の速度はまちまちですから、当然のことです。そういう場合は来年の確定申告で改めて申告すれば、さかのぼって雑損控除が適用されますから、あわてる必要はありません。

とはいえ、今年は税務署が相談窓口などを設けて対応していますから、相談するチャンスです。繰り返しますが、確定申告をしないと払いすぎた所得税は1円も戻ってきません。修理が終わっていなくても見積書を持って税務署に行き、まず相談してみることをお勧めします。なお、KKTでは個別の事例の相談はお受けできません。問い合わせやご相談は税務署や税理士にお願いします。最後に、連載の1回目につけた必要書類のチェックリストを再掲しておきます。

必要書類.jpg税務署の相談会場、税理士による無料相談会場の日時、場所一覧は yubiyubi.png こちら

(KKT報道局・丸山淳一が担当しました。写真と本文は関係ありません)

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