熊本地震 連載・データ集

被災した学者が熊本地震を徹底分析               2016年12月21日

yokosehon.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像のサムネイル画像熊本地震を多角的に分析し、KKTの地震特番でも熊本地震について解説(2016年10月15日放送、上の動画)してくれた熊本大大学院准教授の横瀬久芳さんが2016年12月21日、熊本地震のメカニズムを独自の視点でわかりやすく分析した新著(写真左)を出版しました。

タイトルは『面積あたりGDP世界1位のニッポン 地震と火山が作る日本列島の実力』(講談社+α新書、860円=税別)。経済関係の本と勘違いしそうですが、内容は『目からウロコの熊本地震の真実』とでもいうべき本です。

第1章~第5章は熊本の自然も例にとりつつ、われわれの暮らしが地震や火山と切っても切れない関係にあることを記しています。本題ともいえる熊本地震の分析は第6章から始まります。横瀬さんは、①どこで地震が発生するのか②どのくらいの地震規模なのか③地震でどのような種類の災害が、どこで発生するのか④地震の終息宣言はいつ出せるのか⑤いつ地震が発生するのか――の5つの質問に答えることを目指し、地震発生から現在、そして今後の予測について、丁寧にわかりやすく、時に大胆に熊本地震を解析していきます。

前震から本震へと続いたメカニズム、揺れが大きくなる地域や被害の特徴、今後の地震の見通しも記され、著者自身が被災したからこそ指摘できる体験談や、生活を支える「影の減災ツール」も紹介しています。日本全国、いつ、どこで大きな地震が起きるかわかりません。熊本に住む人だけでなく、地震のことを知りたい人には参考になる一冊です。

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横瀬さんは海洋火山学が専門で、多くの地震学者とは違った視点から熊本地震を分析しています。新説や異説に仕分けされてしまう内容もありますが、いずれも膨大なデータと科学的な分析に基づいており、著書は自然科学の見地から熊本地震を検証する重要な見方を提供してくれています。改めて横瀬さんを取材し、著書の中からえりすぐった4つのポイントを「被災した地震学者が徹底分析」と題して紹介します。

 ポイント1 断層の大きな「割れ残り」はもうない

2度の熊本地震は、布田川(ふたがわ)、日奈久(ひなぐ)の2つの活断層が影響しあって活動したために起きたことはよく知られています。布田川断層帯は阿蘇外輪山の西側、南阿蘇村から益城町木山付近を経て宇土半島の先端に至り、日奈久断層帯は布田川断層帯と接する益城町木山付近を北端とし、芦北町を経て八代海南部に至る断層帯とされています。

hinaguhutagawa.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像<図1>熊本地震を起こした布田川、日奈久断層帯の推定図(地震調査委員会2013年)

2つの断層帯の交点にある益城町木山付近は熊本地震で大きな被害を受け、その後もこの2つの断層が破壊され続けて余震が続きました。ただ、宇土半島北岸や八代海南部といった2つの断層の南西部ではマグニチュード6を超える大きな地震は発生していません。地震学者の中には、「2つの断層の南西部では一連の地震でもエネルギーが放出されていない『地殻の割れ残り』があり、いつ大きな地震が起きてもおかしくない」と指摘する人もいます。しかし、私は断層の南西部に大きな割れ残りはなく、それどころか、活断層そのものが存在しないと考えています。

活断層型の地震は、地殻の上部に外的な力が加わってエネルギーがたまり、一気に割れた時に起こります。活断層に沿って地震が起きるのは、過去の割れ目である活断層が最も割れやすいからです。大きな石を万力で挟んで割り、割れ目を接着剤でくっつけても、再び万力で挟んで力をかければ、おそらく接合したところが割れるのと同じです。つまり、活断層型の地震は同じところで起きやすいわけです。

にもかかわらず、あれだけ大きな地震が起きたのに、2つの断層帯の南西部では大きな地震が起きていません。そもそも宇土半島北岸や八代海南部では、熊本地震の前にも有感地震ですらまれにしか起きていないのです。

地図1.jpgのサムネイル画像<図2>熊本周辺の震央とマグニチュードの分布図

1985年(昭和60年)1月から熊本地震の前月までに起きた震央と地震の規模(マグニチュード)の分布を示したのが<図2>です。この間に発生した震度1以上の有感地震の中で、震源の深さが22キロよりも浅いものを抽出しており、赤丸の大きさはマグニチュードの大きさを示しています。この図を見ると、熊本地震の前まで「熊本は地震がない」と言われてきたのが不思議なほど多くの地震が起きていますが、黒い丸で囲った宇土半島北岸や八代海南部では地震が起きていないこともわかります。1960年(昭和35年)までさかのぼって調べてみても、結果は同じでした。100%断言はできませんが、私はこの地域には活動的な地殻の割れ目、すなわち活断層はないと考えています。

「半世紀程度さかのぼっただけでは、過去にずっと地震がなかったと言えないだろう」とお思いの方もいるでしょうが、過去に大きな地震があれば、何らかの痕跡が残るはずです。布田川断層の南西部は当初は存在が認められておらず、宇土半島北側が直線状に北東から南西に延びている地形などから推定して付け加えられたものです。しかし、この地形は有明海から外海に出る潮流が、半島北部を侵食し続けてできたと考える方が自然です。

活断層型の地震が同じところで繰り返し起きるなら、益城町など活断層があるところは、今後も大きな地震に見舞われることになります。しかし、大きな揺れがあったところはエネルギーが放出されていますから、被害が大きかった地域が、すぐに再び大きな地震に見舞われる恐れはほぼないと言えます。最近では地震計の設置台数も増えて、地震の発生か所は数百メートル程度の誤差で詳細をつかめるようになっています。熊本地震で得られたデータを被害を減らす「減災」に生かして復興を進めていけばいいのです。

 ポイント2 熊本平野は巨大な「逆三角すい」の上にある

大きな地震があるとニュースでは震度や震央が数字や✖印で平面の地図の上に示されます。しかし、われわれが暮らしているのは3次元空間で、平面に住んでいるわけではありません。地下でも同じことで、震源には深さがあります。前震と本震、そしてその直後の震源を3次元空間に記していくと、平面地図で見るのとは違う熊本地震の様子が見えてきます。

singensindo.jpg<図3>一連の熊本地震の震央と深さの分布図

それを示したのが<図3>です。黄~赤の丸は、前震(2016年4月14日)から本震(4月16日)の直前までの間に起き、黄~青の丸は、本震が起きてから最後のマグニチュード5.0以上の余震が起きた4月19日午後8時47分までの間に起きた地震です。ともにマグニチュード1.0以上、震源の深さが22㎞より浅い地震だけを抽出し、震源の深さに応じて11段階に色分けしています。地震の規模(マグニチュード)に関わりなく、丸は同じ大きさで示しています。

まず、前震と本震の間に起きた地震を3次元の地図に記録していくと、熊本平野の地下に北東から南西に続く上辺約60キロ、最深度約18キロの台形上の地下斜面が現れます。16日の本震以降もこの斜面での余震は続き、震源は時間がたつにつれて深くなっていきました。

tetora2.jpgのサムネイル画像また、本震の後には、宇土半島の付け根を横断する上辺約40キロの三角形の地下斜面と、熊本平野の北部を折れ曲がって横断する上辺約70キロの、ややいびつな地下斜面が現れます。つまり、熊本地震は3つの地下斜面に沿って起きており、3つの面をつなぎ合わせると、熊本平野の地下には頂点を下にした巨大な三角すい(錐)があることが見えてきます。

巨大な三角すいの面のうち3面は地下にあり、上部の1面だけが地表に出ています。熊本市や周辺の町村はこの三角すいの地表面にあり、その面の上で100万人近くが暮らしているわけです。

<図3>は3次元を2次元で示しているので、わかりにくいかもしれません。コンビニで三角すいの形をした枝豆パックを見つけたので、これを使って説明すると、てっぺんの平らな部分に熊本市があるわけです(写真)、赤い星をつけた三角すいの最深部が、<図3>の赤い星ということになります。

今回の地震を大きくとらえると、100万人を乗せた逆三角すい全体が反時計回りに動いたとみることもできます。3次元で地震の分布をさらに詳しく分析していけば、それぞれの断層がどう破壊され、震源が今後どこに移っていくか、予測しやすくなるかもしれません。

この連載の1回目で、私は布田川断層帯の宇土半島北岸区間や日奈久断層帯の日奈久区間に活断層は存在しないのではないか、とお話ししました。では、断層はどこにあるのか。地質発達史と熊本地震の余震分布から、私が推定している現在活動的な地表地震断層を記したのが<図4>です。布田川断層の布田川区間、木山断層、北甘木断層、白旗断層は地下で単一の断層面とつながっていると考えています。(新)と記したのは学会で存在が一般的になっていない地表地震断層です。私の推計では日奈久断層はごく短く、マグニチュード7以上の大きな地震を起こすとは考えにくいと思っています。

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<図4>横瀬さんが推計する熊本地方の地表地震断層分布図

分布を上空から俯瞰すると、断層が熊本平野の上に三角形の3辺をなぞったように分布しています。熊本平野が巨大な逆三角すいの上にあり、一連の地震でその逆三角すいが反時計回りに動いたとすれば、地表の割れ目である断層が三角形の辺に沿う形で分布するのはごく自然なことです。

<図4>で示したのはあくまで私の推計によるものです。活断層についてはまだわかっていないことがたくさんあります。観測の精度が飛躍的にアップしているのですから、精度が低かったころに作成された昔の断層図にとらわれることなく、もっと科学的な解析を進めるべきです。私の説がそのきっかけになってくれればと思います。

 ポイント3 被害の大きさを決めた3つの要素

地震の被害は震源に近いほど大きくなりますが、活断層型の地震では大きく揺れる地域は断層周辺に限られます。にもかかわらず、熊本地震では震源から10キロ以上離れているのに大きな被害が出たところがありました。建物の築年数、耐震性などだけの問題ではありません。実は地震の被害の程度は、震源からの距離、地下の地質、そして土地の傾斜と大きく関係しています。

tisituzu.jpg<図5>熊本平野の地質と活断層

<図5>は2003年に熊本県地質調査業協会がまとめた熊本平野の地質図です。熊本市は「水の都」といわれるように、阿蘇方面で降った雨が地下にしみ込み、地下水となって熊本平野に流れ込んでいます。表層に近い地下水の一部は水前寺から江津湖周辺で湧き出し、さらに深い地下水は熊本市の水源となっています。熊本市東部や益城町に広がる保田窪砂礫層(黄色部分)は水を含んだ帯水層で、地盤が軟弱な地域です。地下水が豊富な帯水層と呼ばれるところには水を含んだ土砂が堆積しており、地震で揺さぶられると砂つぶの隙間にある水が揺れで外に押し出され、地盤が変形しやすくなります。

また、自然堤防堆積物が拡がる地域(水色部分)も、川が運んできた粒の大きな土砂が積もっていて帯水層になりやすく、やはり地盤が軟弱です。熊本城や九州新幹線の脱線地点、熊本市南区川尻の液状化地域は2度の震度7の震源からは少し離れていましたが、地盤が弱い地層の上に位置していました。熊本市内で白川や緑川にかかる多くの橋が損傷したのも、川の両岸の土手が地震の揺れで変形したためと思われます。

ちなみにJR鹿児島線の西側の熊本市西区も埋立地ですから地盤が軟弱で、揺れが大きく感じる傾向があります。相次いだ余震で熊本市西区の揺れが大きくなりがちなのは、地下の地質が関係しているというのが私の考えです。

さらに、土地の傾斜の有無も被害の大きさを左右します。益城町周辺は平らに思いがちですが、県道熊本高森線を車で走ってみると、結構アップダウンがあることに気付きます。土地に傾斜があれば、当然土砂は動きやすくなります。つまり、益城町の被害が大きかった地域は震源から近かったから、だけではなく、地盤が軟弱で、さらに傾斜があったという3つの要素が重なったためだった、と考えられます。

では、断層に近く地盤も軟弱な地域は、復興しても再び地震で大きな被害を受ける宿命にあるのでしょうか。私はそうは思いません。活断層の位置が分かっているところはそこを避けて家を建てた方がいいことは言うまでもありませんが、軟弱な地盤については深い杭を打てば、液状化しても建物は倒れません。地震が来る前から分かっている土地の特質を踏まえ、災害に強い町を作れば、必ずや大きな被害は防ぐことができます。

 ポイント4 本震は予測できた では今後はどうなる?

熊本が短い間に2回も震度7に見舞われたことについて、多くの地震学者は「これまでにない予想不可能な出来事だった」とコメントしました。気象庁も本震の後、1か月以上にわたって大きな余震に警戒するよう呼びかけ続け、最近では「最初の地震より小さいという誤解を与えかねない」などの理由で「余震」という言葉も使わなくなりました。

確かに短い時間で震度7が2回というのは予想外だったかもしれません。しかし、大きな地震で前震の後、あまり間を置かずにもっと大きな本震が来る、というのは珍しいことではありません。阪神大震災も東日本大震災も、昨年の鳥取県中部の地震も、本震の前に前震がありました。前震が大地震と呼べる規模でなかったために大きく報じられず、いきなり本震が来たかのように記憶されているだけなのです。

残念ながら、今の科学では大地震がいつ起きるかを予測することはできません。しかし、地震が起きた後、それが前震で、間をおかずにさらに大きい本震が来るかどうかは予測できるのです。熊本地震でも前震は予測できませんでしたが、その後の本震は少なくとも予測可能な状況でしたし、本震の後にさらに大きな地震が来ないことは予測できました。

予測する方法は難しくありません。時間の経過とともに地震が収束に向かうかどうかを見る時に、地震の規模(マグニチュード)の推移に注目するのです。

6jisinnkaisuu.jpgのサムネイル画像地震は地殻が破壊されることによる巨大なエネルギーの放出活動です。マグニチュードは対数で、1 大きくなると地震のエネルギーは約32倍に、2大きいと実に1000倍になります。0.2大きくなるだけで、エネルギーは約2倍になります。

ところが、地震の経過は左の<図6>のように縦軸は回数で示されることが多いのです。気象庁のホームページでも熊本地震を時間の経過とともに回数がどう変化したかを紹介しています。

これでは地下で地震のエネルギーが増えているのか、減っているのか、といった地下で起きていることを正確につかむことはできません。回数ではなくマグニチュードに注目すると、一連の地震の経過を示すグラフは一変します。

jisinngurahu.jpgのサムネイル画像<図7>前震から本震までに発生したマグニチュードの推移

回数ではなく、縦軸を対数のマグニチュードにします。縦軸を対数にするのですから、横軸の時間も対数軸とします。こうして熊本地震の前震と本震の間に起きた地震のマグニチュードの推移を示したのが<図6>です。これをみると、前震の後いったん下がったものの、すぐに右肩上がりに転じていたことがわかります。

大地震が起きると地震エネルギーは放出され、直後の地震のマグニチュードは小さくなります。しかし、熊本地震のように後から本震が来る場合は、前震では破壊され切れなかったところに再び力がかかり、本震の予告となる地震が起き、そのマグニチュードが増していくのです。熊本地震の前震と本震の間には「余震」ではなく「予震」というべき揺れが続いていたことが、グラフからはっきり読み取れます。

kaisuukongojisinkaisuu無題.jpg <図8>本震以降の地震発生回数(縦軸、横軸とも対数軸)の推移

では、本震以降はどうでしょうか。縦軸をマグニチュードから発生回数に変え、横軸は経過時間としていずれも対数軸とし、本震後約9か月(対数)まで推移を追ったのが<図8>です。地震の回数が若干増加に転じる傾向も読み取れましたが、全体としては、地震の発生回数は時間とともに一定に減り続け、右肩下がりとなっています。昨年出演したKKTの番組でもお話しした通り、私はこのまま地下の不安定性が解消されれば、一連の熊本地震は2020年夏の東京五輪が開かれるころに完全に終息するとみています。

地震が起きたら、まず震源とマグニチュードを確認することです。自分がいるところから半径10キロ以内の震源で、マグニチュードが増加傾向にある場合は要注意です。過去の事例から考えて、48時間くらいは警戒してください。一方、その間に全体としてマグニチュードが減少していくなら、地下の岩盤は安定化に向かっているとみなせますから、ひと安心といっていいと思います。

* * *

大きな地震や火山の噴火は日本にはつきものですが、全く人間が対処できず、遭遇したらなす術なし、というわけではありません。被害を完全に防ぐことはできなくても、現代の科学を駆使すれば、被害を最小限に抑える「減災」に向けた対策は充分に可能です。自然現象を「正しく怖がる」ことができれば、復興に向け"がんばるばい!"という気持ちもわいてくるのではないか――そんな気持ちでこの本を書きました。

SIRO_R.jpgのサムネイル画像

yokosekao-2.jpg横瀬 久芳さん(よこせ・ひさよし) 1960年新潟県生まれ。84年新潟大理学部地質鉱物学科卒、86年同大学院理学研究科修了。専門は海洋火山学で、世界の深海底を探索し、2011年には奄美大島沖の海底火山からレアメタルに富む鉱石を発見した。2007年から熊本大学准教授。著書に「はじめて学ぶ海洋学」(朝倉書店)「ジパングの海 資源大国ニッポンへの道」(講談社+α新書)。

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