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 「もういい?」
 「待って!あと5分!」

 団地の5階。吹きさらしのベランダの隅で、大きな体を小さく丸め、震えながら出番を待つ黒い影。もじゃもじゃ縮れた真っ赤な髪。口からののぞく白い牙。寒い2月の夜だというのに、身につけているものといったら、縞模様の薄いトランクス1枚だけ。

 「もういいよ!」
 「よっしゃあ!」

 合図と共に勢いよく戸を開けて、「うぉぉーっ!」と叫びながら部屋に飛び込んできたのは大きな赤鬼!―――それが我が家の"パパ鬼"の鮮烈なデビューの瞬間だった。

 「きゃあああーっっ!」

 血相を変えて散り散りに逃げ回り、泣き叫ぶ3人の子どもたちのかわいいことといったら!

 「待て、待て、待てーっ!」

 子どもたちを追いかけ回しながら、パパ鬼はよほど大きな喜びを感じたに違いない。以来14年間というもの、パパ鬼は節分を一度も欠かしたことがない。2月3日の夜になると、趣向を凝らし、毎回姿を変えながら、やけに張り切って登場するのだ。
 無論、今年も例外ではなかった。

 「悪い子はどぉこだぁーっ」

 いつからか、自分を"なまはげ"だと勘違いしているらしいパパ鬼は、本来の節分の鬼の姿とは随分違っているようにも思うのだかが、あたまにモップをかぶり、顔には赤い小麦粉粘土を貼り、手作りのこん棒を振り回して、ボブ・サップばりの大暴れだった。

 「鬼は外!鬼は外!」

泣き叫ぶ小さな子どもたちの横で、ついこの前まで大泣きしていた上の子どもたちが「節分、最高!」「豆まき、最高!」とはしゃいでいる。

 「いいよねー、豆まき!」
 「楽しいよねー!」
 「おとーさん、最高!」

 ・・・こうまで言われれば、来年も来ないわけにはいかないものね!
 
パパ鬼さん、頑張って!