信子かあさんのちょっとひといき

top

vol.21「霧のロンドン」

2018年2月23日更新

21_180223.jpg

先日の朝早く、母と出かけたときのことです。

玄関を出たら霧。それも濃い霧が出ていました。

車で15分ほど進むと霧はますます濃くなって、右も左も前も後ろも 見えなくなりました。濃霧注意報発令中です。

速度を落とし、ライトをつけて、注意深くノロノロ運転しているわたしの横で、母が突然言いました。

「霧のロンドーン!」


あまりにも唐突な一言だったので、え?霧のロンドン?と、聞き返すと、母は、

「そうよ。霧のロンドン」と繰り返しました。


なんでロンドン?お母さん、ロンドンに行ったことある?

「なかよ(ないよ)」


あっさり否定した母に、じゃ、なんでロンドン?と、さらに尋ねると、

「さあ?聞いたこつのあったったい。ロンドンにゃ 霧の たいぎゃな あっとだろたい。(さあ?聞いたことがあったのよ。ロンドンには霧が沢山あるんでしょうね)」


お母さん、ロンドンって、どこか知ってる?と聞くと、母はまたあっさり「知らん」と答えます。

わたしは吹き出してしまいました。


走っても走っても霧の中。そんな霧を眺めては母が繰り返す「霧のロンドーン!」が妙にツボにはまってしまい、わたしはずっと笑いっぱなしでした。母も楽しそうに笑っています。


ほんの些細な出来事です。

でも、なんだか嬉しくて、泣きそうになりました。


最近イライラすることが多かったからかな。母の変化に、母の衰えに、母の要求に、母の我儘に...。母にイライラを感じる自分にも嫌気がさしてたし...。


こんなふうに声を上げて笑いあいながらのドライブは、久しぶりかな...


40分ほど走っているうちに、霧はすっかり晴れて、澄んだ青空が見えてきました。

霧のロンドン 終わったね、と声をかけると、母は「ほんなこて よか天気ねぇ(ほんとにいい天気ねぇ!)」と目を細めます。


ほんと、いい天気だね、お母さん。

広がる田んぼも 遠くの山も 青い空も 今日はとっても綺麗だね。


わたしの心のモヤモヤした霧も、こんなふうに消えてしまえば、鮮やかな景色が見えてくるかな。

エントリー

バックナンバー